受胎率40%は良いのか、悪いのか ― 「分けて見る」と原因が見えてくる
COLUMN 02 | 受胎率を読む
牛群全体の受胎率は、たくさんの牛の成績を混ぜた平均値です。平均だけを眺めていても、どこに手を打てばよいかはわかりません。米国の獣医師や繁殖コンサルタントが勧める「切り口別」の見方と、そのときの注意点を紹介します。
平均値は、問題を隠す
「うちの受胎率は40%くらい」。こう聞いても、それが良いのか悪いのか、何をすればよいのかは判断できません。受胎率40%という数字の中には、分娩して間もない牛も、何度授精しても妊娠しない牛も、初産の牛も、ベテランの牛も、夏に授精した牛も冬に授精した牛も、すべて混ざっているからです。
たとえば、次のような牛群を例に考えてみます(数値は説明用の例です)。
| グループ | 授精数 | 受胎率 |
|---|---|---|
| 初産牛・初回授精 | 60 | 55% |
| 初産牛・2回目以降 | 50 | 44% |
| 2産以上・初回授精 | 90 | 29% |
| 2産以上・2回目以降 | 100 | 38% |
| 牛群全体 | 300 | 40% |
全体では40%でも、分けてみると2産以上の牛の初回授精だけが、際立って低いことがわかります。
ただし、これで原因がわかるわけではありません。乾乳期の管理なのか、分娩前後の健康なのか、初回授精のやり方なのか、あるいはまったく別の理由なのか。数字が教えてくれるのは「どこから話を始めればよいか」までです。それでも、全体の平均だけを見ていたら、この手がかりにすら気づけません。
米国の飼料会社の専門家 Weigel 氏も、「牛群全体の受胎率に問題がなくても、特定の産次のグループだけが農場の基準を下回っていることがある」と述べています[4]。
どんな切り口で分けるのか
ジョージア大学獣医学部の Overton 氏や、米国牛臨床獣医師協会(AABP)で発表された Nebel 氏らの資料は、受胎率を次のような切り口で分けて見ることを、繁殖記録を読むときの基本として挙げています[1][2]。
それぞれの切り口について、米国の資料が「こういう可能性がある」と挙げている例を紹介します。ただ、これらはあくまで考えられる候補の一部です。原因は一つとは限らず、農場ごとに違い、同じ農場でも時期によって変わります。
1授精回数別(初回・2回目・3回目以降)
米国の牛群管理ソフト DairyComp 305 の開発元は、初回授精の受胎率を「繁殖プログラムがうまくいっているかを示す、最も重要な指標の一つ」と位置づけ、初回授精の成績が良いことは、分娩後の移行がうまくいき、同期化の手順が一貫して守られていることを示す、と説明しています[5]。
2回目以降の受胎率については、授精会社 GENEX の Egan 氏が、影響しうるものとして飼料、乳房炎、再同期化の手順の守られ方、発情の見極めなどを例に挙げています[3]。どれが当てはまるのか、あるいは別の理由があるのかは、その農場の牛と管理を見てはじめてわかります。
2産次別(初産・2産以上)
Egan 氏は、初回・2回目・全体の受胎率を、初産牛と経産牛に分けて毎月見ることを勧めています[3]。
同氏は例として、育成期の増体が十分でなかった初産牛では初期の授精で受胎率が下がることがある、経産牛の初回授精の成績が悪い場合は乾乳期の問題が関係していることがある、と述べています[3]。
3月別(季節)
DairyComp 305 の開発元は、夏の落ち込みは暑熱を示すことが多い一方で、飼料や管理、施設の変更、増頭なども月別の数字に表れるので、落ち込んだ時期に牧場で何があったかと照らし合わせるよう勧めています[5]。Weigel 氏は、毎年同じ時期にくり返しているかを見ることを挙げています[4]。
4分娩後日数別
Overton 氏や Nebel 氏らは、初回授精時の分娩後日数をグラフ(散布図やヒストグラム)にして、実際にいつから授精を始めているかを確かめることを勧めています。決めているはずの任意待機期間(VWP)と実際がずれていないか、時期とともに変わっていないかがわかる、としています[1][2]。
5授精方法別(発情・定時授精・再授精など)
Overton 氏は、授精のきっかけ(乗駕、チョーク・ペイント、定時授精など)ごとに受胎率を比べることを勧めています。同氏によれば、乗駕で見つけた牛の受胎率が高いことは発情発見と授精がうまくいっている裏づけになり、定時授精の受胎率が低い場合は、手順の守られ方や、発情周期が回っていない牛の存在が候補になる、としています[1]。
Weigel 氏は、新しい授精プログラムを始めたときに、その方法の受胎率で効果を確かめることを挙げています[4]。
6授精師別・種雄牛別
Overton 氏は、授精師を比べるときは同じような牛(同じ産次など)を授精した者どうしで比べること、また新しく加わった授精師は、不受胎が先にわかり妊娠は後でわかるため、最初は受胎率が低く出やすいことに注意を促しています[1]。種雄牛も、どんな牛(初回か、リピートか)に使われたかで数字が変わります。
実際のデータでも、差ははっきり出る
米国の大手授精会社 GENEX が、500〜2,000頭規模の牛群のデータをまとめています[3]。
| ホルスタイン | 初回授精 | 2回目 | 全体 |
|---|---|---|---|
| 初産牛(12万頭超) | 47% | 39% | 41% |
| 2産以上 | 39% | 34% | 36% |
このデータでは、初産牛と経産牛の初回授精の受胎率に8ポイントの差があります。牛群の平均だけを見ていると、こうした差は埋もれてしまいます。自分の牛群でも同じ形で分けてみると、「どこが平均を下げているのか」の手がかりが得られます。
注意:その差は「偶然」かもしれない
切り口別に分けると、1つ1つのグループの頭数は小さくなります。ここに大きな落とし穴があります。
Nebel 氏らは、受胎率30%の牛群で、ある授精師や種雄牛の受胎率が「平均と本当に違う」と言えるために必要な授精数を示しています[2]。
| 1グループの授精数 | 平均との差がこれ以上なら 「違う」と言える |
|---|---|
| 10 | ±41ポイント |
| 50 | ±18ポイント |
| 100 | ±13ポイント |
| 300 | ±7ポイント |
| 1,000 | ±4ポイント |
この表によれば、授精10回分のデータでは、受胎率が10%でも50%でも「平均と違う」とは言えません。7ポイントの差を本物だと言うには、300回以上の授精が必要です。著者らは「大きな牛群でも、1つの切り口に十分な授精数がそろうことはまれ」と述べています。Overton 氏も、数ポイントの差だけで授精師の評価などを判断しないよう注意しています[1]。
もう一つの注意:早すぎる妊娠診断
Overton 氏は、授精後の早い時期の妊娠診断は、その後に失われる妊娠も含むため受胎率を高く見せることがあるとして、早期の診断は「空胎牛を見つける検査」と考え、妊娠の確定は授精後40日前後を目安にすることを勧めています[1]。比べる期間や牛群の間で、妊娠を確定するタイミングがそろっているかも確認しておきたいところです。
データは出発点 ― 答えは牛舎にある
ここまで、切り口ごとに米国の資料が挙げている「可能性」を紹介してきました。けれども、数字が教えてくれるのは「どこを見ればよいか」であって、「何が原因か」ではありません。
同じように2回目以降の受胎率が低くても、ある農場では乳房炎が、別の農場では再授精のタイミングが、また同じ農場でも去年と今年で違う理由が関わっているかもしれません。原因は多様で、農場ごとに、そして時期ごとに変わります。
現場は農場の数だけ多種多様です。だからこそ大切なのは、データを手に、獣医師、農場のスタッフ、ときには授精師や関係機関の方々と一緒に、現場で牛の声を聴くことです。牛のボディコンディション、肢蹄や乳房の状態、牛床や通路の様子、発情の出方、授精や処置が実際にどう行われているか。数字で見えた手がかりを、牛舎で確かめ、話し合い、次の記録で結果を確かめる。このくり返しが、繁殖改善の道すじになります。
切り口別の受胎率は「犯人探し」ではなく「話し合いの出発点」です。気になる差が見えたら、①頭数は十分か、②期間を延ばしても同じ傾向か、③ほかの切り口と組み合わせても同じか、を確かめたうえで、データを持って牛舎へ。牛の声を聴きながら、チームで考えることが重要です。
まとめ
- 牛群全体の受胎率は平均値。平均だけでは、どこから手をつけるかが見えにくい
- 授精回数・産次・月・分娩後日数・授精方法・授精師・種雄牛で分けると、話し合いの手がかりが得られる
- 資料が挙げる原因は「候補の一部」。原因は農場ごと、時期ごとに違う
- 頭数が少ない比較は偶然の差かもしれない。期間を延ばし、ほかの切り口と組み合わせて確かめる
- データは出発点。獣医師・スタッフ・関係機関と、現場で牛の声を聴きながら考える
受胎率は、牛群の繁殖成績を決める2つの柱の一つです。もう一つの柱である授精率と合わせて、牛群の「妊娠するスピード」=21日妊娠率を作っています。次回以降は、授精のタイミングや乳房炎と受胎率の関係など、それぞれのテーマについて研究で何がわかっているかを紹介していきます。
牛群の数だけ、現場があります。
データは出発点。大切なのは、現場で牛の声を聴くことです。
CowComposer では、受胎率を授精回数別・産次別・月別・分娩後日数別・授精方法別・種雄牛別・授精師別に、切り替えて集計できます。記録の手集計に時間を取られず、獣医師や農場スタッフと同じ画面を見ながら話し合う材料づくりにお使いいただけます。
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- Overton MW (2009). Using Reproductive Records: Basics of Monitoring. ジョージア大学獣医学部(Florida Dairy Production Conference 2009). https://www.thedairysite.com/articles/2087/using-reproductive-records-basics-of-monitoring
- Nebel RL, DeJarnette JM (2007). Reproductive Records: Monitoring and Compliance. AABP Proceedings 40.
- Egan K (2020). Top 10 Parameters to Monitor Reproductive Performance. GENEX. https://www.dairychallenge.org/pdfs/Top_10_Repro_Parameters_GENEX.pdf
- Weigel M (2018). How to use records to improve reproduction. Progressive Dairy. https://www.agproud.com/articles/31149-how-to-use-records-to-improve-reproduction
- VAS. 8 BREDSUM commands to add to your repro analysis. https://vas.com/blog/dairycomp-bredsum-commands-for-reproduction-analysis/


