受胎率だけでは見えない牛群の「妊娠するスピード」 ― 21日妊娠率 入門
COLUMN 01 | 繁殖成績の物差し
「受胎率はそれほど悪くないのに、なぜか牛が妊娠していない」。その違和感の正体は、受胎率では測れない“スピード”にあります。世界の酪農現場で繁殖成績の標準指標になっている「21日妊娠率」を、計算の仕組みから読み方まで解説します。
受胎率は「授精した牛」しか見ていない
繁殖成績の話になると、まず挙がるのが受胎率です。「今月は受胎率が40%だった」「この精液は受胎率がいい」。もちろん大切な数字です。
ただ、受胎率には大きな死角があります。受胎率の分母は「授精した牛」だけです。発情を見逃して授精できなかった牛、分娩後なかなか授精に至らない牛は、受胎率の計算にそもそも登場しません。
牛群として本当に知りたいのは、「妊娠できるはずの牛のうち、どれだけが実際に妊娠したか」のはずです。この問いにまっすぐ答える指標が、21日妊娠率(21-day Pregnancy Rate)です。ウィスコンシン大学の Cabrera 教授は、21日妊娠率を「繁殖成績を測り、そろえ、牛群どうしを比べるための、最良の単一の指標と思われる」と述べています[1]。
21日妊娠率とは
21日妊娠率は、「妊娠の対象となる牛のうち、21日間に妊娠した牛の割合」です。21日は牛の発情周期1回分。つまり「発情1回分のチャンスのうちに、何割の牛を妊娠させられたか」を表します[2]。
フロリダ大学の普及資料は、これを「任意待機期間(VWP)が明けてから、牛がどれだけ速く妊娠するか」を測る指標だと説明しています[3]。受胎率が「1回の授精の成功率」なら、妊娠率は「牛群が妊娠していくスピード」です。
妊娠率はおおよそ「授精率 × 受胎率」で表せます[3][4]。ここが一番大切なポイントです。授精率と受胎率は、妊娠率に対してまったく同じ重みを持っています。
受胎率が高い牧場が勝つとは限らない
次の2つの牧場を比べてみます(数値は説明用の例です)。
A 牧場
- 授精率
- 35%
- 受胎率
- 60%
- 21日妊娠率
- 21%
B 牧場妊娠が多い
- 授精率
- 70%
- 受胎率
- 40%
- 21日妊娠率
- 28%
受胎率だけを見ればA牧場が優秀に見えます。しかし、21日ごとに実際に妊娠していく牛はB牧場のほうが多いのです。受胎率が高くても、授精のチャンスを逃していれば牛群は妊娠しません。
どう計算するのか
米国の代表的な牛群管理ソフト DairyComp 305 をはじめ、海外の牛群管理で使われている21日妊娠率は、次のようなルールで数えます。数字の意味を読むうえで、この仕組みを知っておくと役に立ちます。
- 21日ごとに区切る。基準日からさかのぼって、21日ずつの「サイクル」に分けます。1年分なら約18サイクルです。
- サイクルごとに「授精の対象となる牛」を数える。牛群に在籍していて、妊娠しておらず、授精を止めていない(繁殖対象から外していない)牛のうち、そのサイクルの中でVWPを過ぎている牛です。VWPを過ぎたのがサイクルの途中なら、サイクルの半分以上(11日以上)がVWP後であれば対象に含めます。
- 授精率 = 授精した頭数 ÷ 対象牛。そのサイクル中に授精した牛を数えます。
- 妊娠率 = 妊娠した頭数 ÷ 結果のわかった対象牛。授精したもののまだ妊娠鑑定の結果が出ていない牛は、分母から外します。授精しなかった牛は「妊娠しなかった牛」として分母に入ります。
- 直近2サイクルは「参考表示」で、合計には入れない。この期間に授精した牛は、まだ妊娠鑑定の結果が出そろっていません。そのため直近2サイクルは授精率だけが表示され、妊娠率は出ません。また、授精率も含めて合計の計算からは外します。
- 全体の成績は「合計 ÷ 合計」。直近2サイクルを除いた各サイクルについて、妊娠頭数の合計を対象牛の合計で割ります。各サイクルの妊娠率を平均するのではありません。授精率も同じように計算します。
計算の例
ある牛群の4サイクル分の記録です(説明用の例)。
| サイクル | 対象牛 | 授精 | 授精率 | 結果のわかった対象牛 | 妊娠 | 妊娠率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 40 | 24 | 60% | 40 | 10 | 25% |
| 2 | 38 | 20 | 53% | 38 | 7 | 18% |
| 3(直近・参考) | 42 | 27 | 64% | ― | ― | ― |
| 4(直近・参考) | 39 | 22 | 56% | ― | ― | ― |
| 合計(1〜2) | 78 | 44 | 56% | 78 | 17 | 22% |
サイクル1を見ると、40頭のうち24頭に授精(授精率60%)、そのうち10頭が妊娠しました。受胎率は 10 ÷ 24 ≒ 42%、妊娠率は 10 ÷ 40 = 25%。確かに 60% × 42% ≒ 25% になっています。
直近のサイクル3・4は授精率だけが表示され、合計には入りません。「いま授精が回っているか」を確かめるための参考値です。合計の授精率56%と妊娠率22%は、結果の出そろったサイクル1・2だけで計算しています。
「妊娠率25%」と聞くと低く感じるかもしれません。受胎率の感覚で聞いてしまうからです。ケンタッキー大学の普及資料も「妊娠率25%はかなり良い成績」と注意を促しています[4]。妊娠率は受胎率とはまったく別のスケールの数字です。
なぜ「スピード」が大事なのか
21日妊娠率は、21日ごとにくり返し効いてきます。単純化して、VWPが明けた牛のうち毎サイクル一定の割合が妊娠すると考えると、空胎のまま残る牛の割合は「(1 − 妊娠率)をサイクルの数だけ掛け合わせた値」になります。たとえば妊娠率25%なら、1サイクル後に75%、2サイクル後に 0.75 × 0.75 ≒ 56%、4サイクル後には 0.75⁴ ≒ 32% の牛が空胎のまま残ります。これを妊娠率15%・25%・35%で計算したのが次の図です。
試算:妊娠率の違いによる空胎牛の減り方(筆者計算)
VWPが明けて4サイクル(84日)たった時点で、妊娠率15%の牛群では約半分(52%)の牛がまだ空胎です。妊娠率25%なら32%、35%なら18%まで減ります。この単純な試算の上では、10ポイントの差が、空胎のまま残る牛の数の差としてサイクルごとに積み上がっていくことになります。
どのくらいを目指せばいいのか
米国では、この20年あまりで21日妊娠率が大きく伸びました。ウィスコンシン大学の Fricke 教授らによれば、約20年前の米国の平均はおよそ14%で、1998年には「年間20%」が目標とされながら、達成できる牛群はわずかでした。それがいまでは平均が21%を超え、乳牛の記録システム(DRMS)に参加するホルスタイン牛群の60%以上が20%を上回り、30%を超える牛群も珍しくなくなっています[5]。
米国の平均
米国の平均
成績」
なった水準
※ 14%・21%超・30%超は Fricke 教授ら[5]、25%はケンタッキー大学の Heersche 氏[4]による米国の数字です。VWPの設定、牛群の規模や飼養環境によって数字の意味は変わるので、よその数字と比べるより、自分の牛群の推移を見ることが基本になります。
Fricke 教授らは、この伸びを支えたものとして、定時人工授精プログラム(オブシンク、ダブルオブシンクなど)による授精率の向上と受胎性の改善を挙げています[5]。
妊娠率は、経営の数字でもある
Cabrera 教授は、妊娠率が上がると、泌乳前半の乳量の多い時期にいる牛が増え、子牛の販売が増え、淘汰や繁殖にかかる費用が相対的に下がると説明しています[1]。同教授の試算では、21日妊娠率を15%から20%に上げると、1頭あたり年間約76ドルの利益改善になるとされています[6]。
同教授は、もう一つの傾向も示しています。妊娠率を1ポイント上げる価値は妊娠率が低い牛群ほど大きく、妊娠率が上がるにつれて小さくなるものの、40%近くまでプラスのままだというものです[1][7]。実際にどれだけの効果があるかは、それぞれの農場の条件によって変わります。
※ 金額は米国の乳価・費用を前提にしたモデル試算です。日本の農場にそのまま当てはまるものではありません。
21日妊娠率の読み方 ― 4つのコツ
1. まず「授精率」と「受胎率」に分解する
妊娠率は授精率と受胎率の掛け算なので、妊娠率が低いときは、まずどちらの数字が足を引っ張っているのかを確かめます。ただ、それで原因がわかるわけではありません。授精率が低い背景も、受胎率が低い背景も、農場ごとに、そして時期ごとにさまざまです。分解した数字は、獣医師や農場スタッフと「どこから見ていくか」を話し合うための手がかりです。現場は農場の数だけ多種多様です。データは出発点にすぎません。最後は、データを手に、現場で牛の声を聴きながら一緒に考えることが重要です。
2. 平均ではなくサイクルごとの推移を見る
1年間の平均が20%でも、夏のサイクルだけ落ちている、ある時期から授精率が下がっている、ということがあります。サイクルごとに並べると、「いつ、何かが変わったか」の手がかりが得られます。なぜ変わったのかは、記録だけではわかりません。その時期の牛舎や牛の様子、管理の変化と照らし合わせて、農場のみなさんと考えていくことになります。
3. 直近2サイクルは「途中経過」
最近授精した牛はまだ妊娠鑑定の結果が出ていません。直近2サイクルは合計に入らない参考値として、授精率で「いま授精が回っているか」を確認します。妊娠率は結果が出そろってから評価します。
4. 頭数が少ない牛群は「ぶれ」に注意
対象牛が10頭なら、1頭の妊娠で10ポイント動きます。1サイクルの数字だけでなく、数サイクルの合計や流れで見ることが重要です。また、VWPを何日に設定しているかで数字は変わるため、他の牛群と比べるときは条件をそろえることが大切です。
まとめ
- 受胎率は「授精した牛」だけの数字。授精できなかった牛は見えない
- 21日妊娠率は「妊娠できるはずの牛が、21日ごとにどれだけ妊娠したか」=牛群が妊娠していくスピード
- 妊娠率 ≒ 授精率 × 受胎率。授精率と受胎率は同じ重み
- 米国の平均は約20年で約14%から21%超へ(Fricke 教授ら)
- 米国の試算では、妊娠率が低い牛群ほど改善の経済効果が大きい(Cabrera 教授)
- 数字は原因ではなく手がかり。理由は農場ごと、時期ごとに違う
まずは自分の牛群の21日妊娠率を知ること。そして、それを授精率と受胎率に分けて眺め、獣医師や農場スタッフと一緒に、牛舎で牛を観ながら考えること。ここから繁殖改善が始まります。次回は、受胎率を「分けて見る」と何が見えてくるのかを取り上げます。
牛群の数だけ、現場があります。
データは出発点。大切なのは、現場で牛の声を聴くことです。
21日妊娠率を手で数えるには、分娩・授精・妊娠鑑定の記録を日付ごとに突き合わせる必要があり、かなりの手間がかかります。CowComposer は、本記事で紹介した数え方で、18サイクル分の授精率・受胎率・妊娠率を自動で集計します。気になるサイクルをすぐに見つけ、獣医師や農場スタッフと同じ画面を見ながら話し合う材料にできます。
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- Cabrera VE (2014). Economics of fertility in high-yielding dairy cows on confined TMR systems. Animal. ウィスコンシン大学. https://DairyMGT.cals.wisc.edu/publications/common_files/Cabrera14Ireland.pdf
- Nebel RL (2003). Pregnancy Rate. Dairy Pipeline 24(3). バージニア工科大学. https://sites.ext.vt.edu/newsletter-archive/dairy/2003-03/pregnancyrate.html
- De Vries A, van Leeuwen J, Thatcher WW (2005). Economics of Improved Reproductive Performance in Dairy Cattle. フロリダ大学 IFAS Extension, AN156. https://journals.flvc.org/edis/article/download/115016/113343/163238
- Heersche G Jr. Ways to Measure Dairy Reproductive Performance. ケンタッキー大学. https://afs.ca.uky.edu/files/ways_to_measure_dairy_reproductive_performance.pdf
- Fricke PM, Wiltbank MC, Pursley JR (2020). The high fertility cycle. AABP Proceedings 53(2). https://bovine-ojs-tamu.tdl.org/aabp/article/view/8052/8000
- Cabrera VE (2011). The economic value of changes in 21-day pregnancy rate and what controls this value. ウィスコンシン大学. https://DairyMGT.cals.wisc.edu/publications/common_files/2011_Discover_Cabrera.pdf
- Cabrera VE. Economic evaluation of reproductive performance. ウィスコンシン大学. https://DairyMGT.cals.wisc.edu/presentations/International_Audience/ReproductionEconomicsPaper.pdf


