体細胞が「倍」になると、何が起きているのか ― リニアスコアで読む、見えない乳房炎
COLUMN 03 | 乳質を読む
バルク乳の体細胞数は、乳代の加算や減額にかかわるので、多くの農場で気にかけている数字です。けれども米国の研究者たちは、体細胞の本当のコストは、乳代の明細には表れない場所にあると指摘しています。体細胞とリニアスコアの読み方を、米国の大学や全米乳房炎協議会の資料から紹介します。
「静かに」失われているもの
ミシガン州立大学の Erskine 教授は、体細胞を下げることのいちばん大きな見返りは、乳代の加算金ではないと述べています。乳房炎が治りきらずに続いている牛は、体細胞がわずかに上がっている程度の潜在性の状態でも、毎回の搾乳で、毎日、乳量を失っている。しかもその牛にも、健康な牛と同じだけの飼料や手間がかかっている。同教授はこれを、潜在性乳房炎は「静かにお金が消えていく穴」だと表現しています[1]。
全米乳房炎協議会(NMC)の資料も、乳房炎による損失の約70%は乳量の減少によるもので、その多くは見た目では気づきにくい潜在性の段階で起きている、と説明しています[2]。
体細胞は「炎症」の目印
ウィスコンシン大学の Ruegg 教授(乳房炎・乳質の研究者)は、体細胞について次のように説明しています[3]。
- 体細胞のほとんどは白血球。感染した乳房では、その大部分が好中球になる
- 体細胞が示しているのは、感染そのものではなく炎症(体の防御反応)
- 感染していない乳房の体細胞は、ふつう20万/mL未満
- 体細胞は、品種・乳量・泌乳ステージ・栄養管理によっては、ほとんど変わらない(例外として、乳量がごく少ない場合、感染牛が多い場合、便がゆるく牛が汚れやすい飼料の場合を挙げている)
同教授は、体細胞を上げるのは、乳房炎の原因となる菌に乳頭がさらされるような管理だ、としています[3]。
リニアスコアは「倍々」を1点刻みにした数字
牛群検定の成績表に並ぶリニアスコアは、体細胞数を扱いやすくするための換算値です。体細胞が2倍になるごとに、リニアスコアが1上がるしくみです。体細胞数を対数に変換するこの考え方は、国の家畜改良センターが乳用牛の遺伝評価に使う「体細胞スコア」でも同じで、同センターは体細胞数 X(千個/mL)からの換算を log2(X/100)+3 と示しています[8]。米国で使われているリニアスコアの式も同じ形です[1]。体細胞10万/mLでちょうど3、20万/mLで4、40万/mLで5になります。
ただし、日本の牛群検定の成績表では、リニアスコアを整数で表示します。北海道酪農検定検査協会の資料では、それぞれのリニアスコアにあたる体細胞数と、乳房の健康状態の目安を次のように示しています[7]。
| 乳房の健康状態の目安 | 体細胞数(千/mL) | リニアスコア |
|---|---|---|
| 健康牛 | 〜17 | 0 |
| 18〜35 | 1 | |
| 36〜70 | 2 | |
| 要注意牛(潜在性乳房炎) | 71〜141 | 3 |
| 142〜282 | 4 | |
| 乳房炎牛 | 283〜 | 5以上 |
同協会は、体細胞数が約28万3千/mL(リニアスコア5)以上の牛は乳房炎が強く疑われ、7万1千〜28万2千/mL(リニアスコア3〜4)の牛は1つ以上の分房が乳房炎にかかっている可能性がある「潜在性乳房炎が疑われる牛」として注意が必要、と説明しています[7]。
米国の資料で「リニアスコア4は20万/mL」と書かれているのは、換算式の上での値です。成績表の整数のリニアスコアで見ると、「4」は14万2千〜28万2千/mL、「5」は28万3千/mL以上の幅を持っています。米国の数字と日本の成績表の数字を比べるときは、この違いに注意が必要です。
平均の体細胞数より、リニアスコアが牛群を映す
北海道酪農検定検査協会は、牛群の体細胞数の平均は極端に高い牛に引き上げられてしまう一方、リニアスコアはそうした牛の影響を受けにくく、牛群の状態を正確に評価できる、と説明しています。同協会の例では、体細胞の平均がどちらも40万/mLの2つの月でも、1頭だけが極端に高い月は平均リニアスコアが3、全頭が高い月は5になります。前者はその1頭への対応が、後者は管理方法の点検が必要な状態だ、としています[7]。
リニアスコアと乳量の損失
なぜわざわざ換算するのか。Erskine 教授は、Raubertas と Shook の研究(1982年)を紹介しています。この研究は、乳量の損失が体細胞数そのものではなく、体細胞が「倍」になるごとに一定量ずつ増えることを示しました。その量は、体細胞が2倍になるごと(リニアスコアが1上がるごと)に、経産牛で1日約1.5ポンド(約0.7kg)、初産牛で約0.75ポンド(約0.3kg)というものです[1]。
| 体細胞(千/mL) | 1日の乳量損失 | 1泌乳期の乳量損失 |
|---|---|---|
| 50 | 0 | 0 |
| 100 | 約0.7kg | 約180kg |
| 200 | 約1.4kg | 約360kg |
| 400 | 約2.0kg | 約540kg |
| 800 | 約2.7kg | 約730kg |
ネブラスカ大学の資料は、こうした損失は「体細胞20万/mL以下の低い値でも起きている」と注意を促しています[4]。
乳量の多い牛ほど、失うものも大きい
Erskine 教授はさらに、カナダ・オンタリオ州の2,800を超える牛群の記録を調べた Hand らの研究(2012年)を紹介しています。この研究では、体細胞の上昇による損失は従来の推定より大きい可能性があり、とくに初産牛で大きいこと、そして乳量の多い牛ほど、失う乳量(量でも割合でも)が大きいことが示されました[1]。
バルク乳の体細胞と、牛群全体の損失
NMC は、バルク乳の体細胞数と、牛群全体で失われている乳量の関係を次のように示しています[2]。
| バルク乳の体細胞(千/mL) | 失われている乳量 (20万/mLの牛群と比べて) |
|---|---|
| 200 | 0% |
| 500 | 6% |
| 1,000 | 18% |
| 1,500 | 29% |
NMC は、20万/mLの牛群でも約6%の分房が感染しているので、これは控えめな推定だとしています。また、バルク乳の体細胞は出荷される乳だけの値で、治療中などで出荷していない牛の乳は含まれない点にも注意を促しています[2]。
個体の体細胞で、牛群の乳房の健康を見る
NMC は、乳房炎対策の効果を臨床型乳房炎の件数だけで判断するのは不十分で、個体ごとの体細胞の推移のような、より感度の高い指標で評価する必要があるとしています[2]。
Ruegg 教授は、牛群検定の個体の体細胞から計算できる指標と、その目標を次のように示しています。ここでの「体細胞が高い」は、体細胞20万/mLを超える牛(同教授は「リニアスコア4超」と表現)です[5]。日本の成績表の整数のリニアスコアでいえば、「4」の途中に境目があることになります。北海道の資料の「リニアスコア5以上(28万3千/mL以上)」とは基準が異なるので、自分の牛群で計算するときは、どの基準で数えたかをそろえておくことが大切です。
| 指標 | 計算 | 目標(Ruegg 教授) |
|---|---|---|
| 有病率 | 体細胞が高い牛 ÷ 検定した牛 | 15%未満 |
| 新規感染率 | 今回初めて高くなった牛 ÷ 前回は低かった牛 | 5%未満(計算方法により8%まで) |
| 分娩後初回検定で高い牛 | 初回検定で高い牛 ÷ 初回検定の牛 | 初産 10%未満、2産以上 5%未満 |
| 乾乳前最終検定で高い牛 | 最終検定で高い牛 ÷ 最終検定の牛 | 25%未満 |
牛群全体の平均だけでなく、このように「いつ」「どの牛で」体細胞が上がっているのかを分けて見ると、話し合いの手がかりが増えます。ネブラスカ大学の資料は、産次別の体細胞を比べる意味について、初産牛で高い場合には育成牛や初産牛の分娩前後の環境、経産牛で高い場合には乾乳期の治療や牛舎の清掃などが関係していることがある、と例を挙げています[4]。ただし、これらはあくまで候補の一部です。
データは出発点 ― 答えは牛舎にある
NMC の乳房炎対策の指針(2025年改訂)は、その第1項目に「牛群ごとに乳房の健康の目標を決め、データで評価し、獣医師や農場主、搾乳担当者、アドバイザーと定期的に見直すこと」を掲げています。そのうえで、牛の環境、搾乳の手順、搾乳機器、臨床型乳房炎の管理、乾乳期の管理、外から菌を持ち込まないための対策を、続く項目として挙げています[6]。
体細胞やリニアスコアの数字は、「どの時期に」「どのグループで」何かが起きていそうかを教えてくれます。けれども、なぜそうなっているのかは、数字だけではわかりません。同じように新規感染率が高くても、ある農場では牛床の状態が、別の農場では搾乳の手順が、また同じ農場でも季節によって違う理由が関わっているかもしれません。
牛床や通路の様子、乳頭の状態、搾乳の流れ、乾乳牛や分娩前後の牛の過ごし方。数字で見えた手がかりを持って牛舎に立ち、牛の様子を確かめ、農場のみなさんと話し合う。そして次の検定で結果を確かめる。このくり返しが、乳質を守る道すじになります。
体細胞の数字は「答え」ではなく「話し合いの出発点」です。バルク乳の値だけでなく、個体の推移、産次や時期ごとの違いを見て、その手がかりを持って牛舎へ。現場で、牛の声を聴きながら考えることが重要です。
まとめ
- 体細胞は「炎症」の目印。上がる背景には乳房炎があることが多い(Ruegg 教授)
- リニアスコアは、体細胞が2倍になるごとに1上がる。1上がるごとに経産牛で1日約0.7kgの乳量を失うと推定されている(Raubertas & Shook)
- 日本の成績表は整数表示。北海道酪農検定検査協会の目安では、3〜4(7万1千〜28万2千/mL)が要注意、5以上(28万3千/mL以上)が乳房炎牛
- 乳房炎の損失の約7割は乳量の減少。多くは見た目でわからない潜在性の段階で起きている(NMC)
- バルク乳の値だけでなく、個体の体細胞で「有病率」「新規感染率」「分娩後」「乾乳前」を見る(Ruegg 教授)
- 数字は手がかり。理由は農場ごと、時期ごとに違う
次回以降は、分娩後すぐの乳房炎のコストや、乳房炎と繁殖のつながりなど、乳質をめぐるテーマについて、研究で何がわかっているかを紹介していきます。
牛群の数だけ、現場があります。
データは出発点。大切なのは、現場で牛の声を聴くことです。
CowComposer は、牛群検定(乳検)のデータを取り込み、個体ごとのリニアスコアの推移や、牛群のリニアスコアの分布を表示できます。成績表をめくって探さなくても、気になる牛や時期を見つけ、獣医師や農場スタッフと同じ画面を見ながら話し合う材料にできます。
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- Erskine R (2013). Somatic Cell Counts and the Milk Check. ミシガン州立大学.(Raubertas & Shook 1982、Hand ら 2012 を紹介)
- National Mastitis Council. The Value and Use of Dairy Herd Improvement Somatic Cell Count(ファクトシート). https://www.nmconline.org/
- Ruegg PL. Understanding & Managing Somatic Cell Counts To Improve Milk Quality(講演資料). ウィスコンシン大学. https://teagasc.ie/wp-content/uploads/2025/05/PRuegg.pdf
- Keown JF, Kononoff PJ. How to Interpret the DHIA-520 Somatic Cell Count Profile. G1656. ネブラスカ大学. https://extensionpubs.unl.edu/
- Ruegg PL (2011; 2016更新). Key Performance Indicator: Subclinical Mastitis. ミシガン州立大学 掲載.
- National Mastitis Council (2025). Recommended Mastitis Control Program. https://www.nmconline.org/
- 北海道酪農検定検査協会. 乳検 乳成分データの活用方法 ― 読み取ろう!牛の健康状態(リーフレット). https://www.hmrt.or.jp/topics
- 家畜改良センター. 評価形質:体細胞スコア. https://www.nlbc.go.jp/kachikukairyo/iden/nyuyogyu/hyokahoho/taisaibo.html

