早く妊娠した牛は、次も妊娠しやすい? ― High Fertility Cycle(高受胎の好循環)
COLUMN 07 | 繁殖成績の物差し
同じ授精プログラムを使っているのに、牛群によって成績に大きな差がある。その理由の一つとして、米国の研究者たちが提唱しているのが「High Fertility Cycle」という考え方です。分娩前後のボディコンディションと受胎の関係から、前の産次と次の産次のつながりまでを紹介します。
同じやり方なのに、なぜ差が出るのか
第1回では、米国の21日妊娠率がこの約20年で約14%から21%超へと伸びたことを紹介しました。ウィスコンシン大学の Fricke 教授、Wiltbank 教授、ミシガン州立大学の Pursley 教授は、その伸びの多くが、定時授精(ホルモン剤で排卵の時期をそろえ、決まった日に授精する方法)を組み込んだ授精プログラムの普及によるものだと説明しています[1]。
一方で同氏らは、まったく同じ授精プログラムを使っている牛群どうしでも、成績には大きな差があると指摘しています。そこで同氏らが注目したのが、分娩の前後に牛のボディコンディションがどう変わるか、でした[1]。
ボディコンディションスコア(BCS)は、牛の脂肪の付き具合を、見た目と触った感触で点数にしたものです。ここで紹介する研究では1(やせ)〜5(太り)の5段階で評価しています[1]。
「分娩後はやせるもの」は当たり前?
分娩後の乳牛は、乳量が急に増える一方で食べる量が追いつかず、体の脂肪を使ってやせていく。これが長く「普通のこと」と考えられてきました。
Fricke 教授らがその見方を問い直す出発点として紹介しているのは、1992年に Britt 氏が76頭の記録を振り返った観察です。分娩後の数週間でBCSを落とした牛と維持した牛を比べたところ、初回授精の受胎率(1回の授精で妊娠した牛の割合)は落とした牛で25%、維持した牛で62%でした。同氏らは、近年の研究がこの観察を裏づけ、「すべての牛が分娩後にBCSを落とすのが普通」という長年の前提に疑問を投げかけていると述べています[1]。
分娩前後のBCSの変化と受胎率
Fricke 教授らは、分娩前後にBCSが「減った牛」「変わらなかった牛」「増えた牛」で、初回の定時授精の受胎率を比べた研究も紹介しています[1]。Carvalho ら[3]※1と Barletta ら[4]の研究では、BCSが増えた牛ほど受胎率が高く、減った牛ほど低い傾向が見られました。Barletta らは、BCSが減った牛では病気も多く、分娩前のBCSが高めだった牛ほど分娩後にBCSを落としていたと報告しています[4]。
Fricke 教授らは、これらの結果から、BCSが低めで分娩した牛ほど、分娩後にBCSを落としにくく、受胎しやすく、病気も少なかったという関連を整理しています[1]※2。では、なぜBCSが高めで分娩する牛がいるのか。ここで、前の産次とのつながりが出てきます。
前の産次で妊娠が遅れると、分娩時のBCSが高めになる
ミシガン州立大学の Middleton 氏、Pursley 教授らは、ミシガン州の1つの農場で、分娩前の牛851頭を追いました※3。前の産次の分娩間隔(空胎日数に妊娠期間を足したもの)が長かった経産牛ほど、BCSが高めで分娩し、分娩後30日のあいだにBCSを落としていました。前の産次の空胎日数が130日より短かった牛では、分娩後にBCSを維持・増加させた牛が28%で、130日より長かった牛の16%より多かったと報告されています[5]。
BCSを維持・増加させた経産牛は、落とした経産牛より初回授精の受胎率が高く、妊娠ロス(いったん妊娠と診断された後に、妊娠が失われること)も少なかったとされています[5]※4。
Fricke 教授らは、VWP(任意待機期間:分娩後、授精を始めるまでに置く期間)が明けても早く妊娠しない牛は、乳量の下がった泌乳後期を長く過ごし、BCSが上がりすぎる傾向があると書いています。そして、これらの研究をつないで、次のような循環を説明しています[1][6]。
High Fertility Cycle(高受胎の好循環)の考え方(提唱されている仮説)
同氏らは、この好循環と授精プログラムの普及を合わせて考えると、牛群による成績の違いの多くを説明できるかもしれない、としています。ただし同氏ら自身も、これらは関連であり、因果関係を確かめるには牛を無作為に分けて比べる試験が必要だと書いています[6]。
前の産次の空胎日数と、次の産次
前の産次と次の産次のつながりは、もっと大きなデータでも調べられています。Overton 氏と Eicker 氏が米国のホルスタイン60牛群、109,374頭の記録を分析したところ、前の産次の空胎日数が長かった牛ほど、次の産次で分娩後90日までに妊娠した牛の割合が低く、早い時期に淘汰・更新されるリスクが高いという関連が見られました[2]※5。
同氏らは、泌乳の早い時期に受胎させ、標準的な長さの乾乳期間をとることが、次の産次で良い成績が得られる見込みを高め、早すぎる淘汰を減らすことにつながる、と結論づけています[2]。
この研究を読むときに
ここで紹介した研究は、いずれも記録を見比べた観察研究で、その多くは、この考え方を唱える研究者たち自身のグループによるものです。別のグループによる15研究のまとめ(Stevenson 氏ら、2022年)では、授精時のBCSが高い牛ほど初回授精の受胎率が高かった一方、分娩から初回授精までのBCSの減り幅と受胎率との関連は見られなかったと報告されています。一方で、経産牛では、分娩後のBCSの減り幅が大きい牛ほど、妊娠と確認されたあとに流産などで妊娠を失う割合(妊娠ロス)が高い傾向があったとされています[7]。
また、研究の多くは定時授精を使う米国の大きな牛群のものです※6。研究の数字が自分の牛群でそのまま再現されるとは限りません。
自分の牛群では、どうだろう
Fricke 教授らは、牛群をこの好循環に乗せるための考え方として、①分娩3週間前・分娩時・分娩3週間後・授精時にBCSを記録する、②VWPが明けたら、牛を早く妊娠させるための取り組みを考える、③1頭あたりの授精回数に上限を決める、④泌乳後期の牛が太りすぎないよう栄養を工夫する、の4つを挙げています[1][6]。どこから手をつけるかは牛群によって違います。とくに③は後継牛の確保や淘汰の考え方とも関わり、獣医師や栄養の担当者と相談しながら決めていく事柄です。
記録を見るときには、次のような問いが手がかりになるかもしれません。
- 分娩前後のBCSは記録に残っているか。BCSが高めで分娩する牛はどのくらいいるか
- 前の産次で空胎日数が長かった牛は、今回の分娩前後にどんな経過をたどったか。病気は多くないか
- 長期空胎牛は何頭いて、どこまで授精を続けるかを話し合ったことはあるか
記録でわかるのは、「どの牛が、どんな経過をたどったか」までです。乾乳期や分娩の前後に牛がどんな様子だったかは、牛舎で実際に牛を観て、牛を見ている人たちと話すことで見えてきます。データを手に、現場で牛の声を聴きながら考えることが重要です。
まとめ
- 前の産次で空胎日数が長かった牛ほど、次の産次の早い時期の妊娠が少なく、淘汰が多かった(Overton 氏ら)
- 分娩前後にBCSを保った牛や増やした牛ほど、初回授精の受胎率が高い傾向があった
- 前の産次で妊娠が遅れた経産牛ほど、BCSが高めで分娩し、分娩後にBCSを落としていた(Middleton ら、1農場の研究)
- 別のグループのまとめでは、分娩から初回授精までのBCSの減り幅と受胎率の関連は見られなかった(Stevenson 氏ら)
- いずれも「関連」を示した観察研究で、好循環は提唱されている仮説。自分の牛群の記録と牛で確かめていく
21日妊娠率が表す「妊娠するスピード」は、その産次だけの話ではないのかもしれません。前の産次の記録と今回の分娩前後の経過を並べ、牛舎で牛を観ながら考えることが、自分の牛群でこの関係がどう見えるかを知る手がかりになるかもしれません。次回は、分娩後すぐの乳房炎のコストを取り上げます。
牛群の数だけ、現場があります。
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- ※1 ただし Carvalho らの研究(ウィスコンシン州の2農場、1,887頭)では、この差が見られたのは2つの農場のうち1つだけでした[3]。
- ※2 Barletta らの研究で比べているBCSの差は、いずれも1点に満たないものです[4]。「低め」について Fricke 教授らは、分娩後130日までに妊娠した牛は 2.75〜3.0 ほどのBCSで乾乳・分娩すると書いています[6]。
- ※3 約1,000頭を1日3回搾乳する農場で、乾乳牛と初産前の未経産牛を分娩前から追った研究です。この農場では、分娩後30日でBCSを落とした牛が全体の約8割でした[5]。
- ※4 受胎率の差は、病気になった牛を除いて分析しても残っていました。妊娠ロスを比べた頭数は多くありません。初産牛では受胎率の差は見られませんでした。BCSを落とした牛は分娩後30日・60日の乳量が多く、著者らは、経済的にどちらが有利かははっきりしないと書いています[5]。
- ※5 牛群管理ソフトで乳量を記録している、集約的に管理された通年分娩の牛群です。前の産次の空胎日数は平均114日、中央値98日。妊娠した牛の割合は統計モデルによる推定値です。乾乳期間は、短すぎても長すぎても、次の産次の早い時期の淘汰・更新が多くなっていました。著者らは、後ろ向きの観察研究のため直接の原因かどうかの判断には注意が必要とし、病気の重い牛は乾乳前に淘汰されているため、前の産次の病気の影響は小さく見積もられている可能性にも触れています[2]。Overton 氏と Eicker 氏の研究は、著者が Zoetis 社と Valley Ag Software 社に所属しており、外部からの資金提供は受けていないと記されています。
- ※6 発情を見つけて授精する牛群、つなぎ飼いの牛群、乾乳期を別の場所で過ごす牛群などで同じ関係が見られるかは、これらの研究からはわかりません。また、BCSの付け方には評価する人による差があります。
参考文献
- Fricke PM, Wiltbank MC, Pursley JR (2020). The high fertility cycle. AABP Proceedings 53(2):189–192. ウィスコンシン大学・ミシガン州立大学. https://bovine-ojs-tamu.tdl.org/aabp/article/view/8052/8000(Britt 1992、Carvalho ら 2014、Barletta ら 2017、Middleton ら 2019 を紹介)
- Overton MW, Eicker S (2025). Associations between days open and dry period length versus milk production, replacement, and fertility in the subsequent lactation in Holstein dairy cows. J Dairy Sci 108:3764–3779. https://doi.org/10.3168/jds.2024-26055
- Carvalho PD, Souza AH, Amundson MC, Hackbart KS, Fuenzalida MJ, Herlihy MM, Ayres H, Dresch AR, Vieira LM, Guenther JN, Grummer RR, Fricke PM, Shaver RD, Wiltbank MC (2014). Relationships between fertility and postpartum changes in body condition and body weight in lactating dairy cows. J Dairy Sci 97:3666–3683. https://doi.org/10.3168/jds.2013-7809
- Barletta RV, Maturana Filho M, Carvalho PD, Del Valle TA, Netto AS, Rennó FP, Mingoti RD, Gandra JR, Mourão GB, Fricke PM, Sartori R, Madureira EH, Wiltbank MC (2017). Association of changes among body condition score during the transition period with NEFA and BHBA concentrations, milk production, fertility, and health of Holstein cows. Theriogenology 104:30–36. https://doi.org/10.1016/j.theriogenology.2017.07.030
- Middleton EL, Minela T, Pursley JR (2019). The high-fertility cycle: How timely pregnancies in one lactation may lead to less body condition loss, fewer health issues, greater fertility, and reduced early pregnancy losses in the next lactation. J Dairy Sci 102:5577–5587. https://doi.org/10.3168/jds.2018-15828
- Fricke PM, Wiltbank MC, Pursley JR (2022). The high fertility cycle. JDS Communications 4(2):127–131. https://doi.org/10.3168/jdsc.2022-0280([1] を査読誌向けに書き直した総説)
- Stevenson JS, Atanasov B (2022). Changes in body condition score from calving to first insemination and milk yield, pregnancy per AI, and pregnancy loss in lactating dairy cows: A meta-analysis. Theriogenology 193:93–102. https://doi.org/10.1016/j.theriogenology.2022.09.010


